香水のレビュー(満点は☆7)
☆☆☆☆★★★(4点) ウォーターリリー。スイレン。睡蓮といえば、印象派の画家クロード・モネの「白い睡蓮」を思い浮かべる。光まばゆい庭園の池。水面に広がる円い緑の葉、そこから白やピンクの花々が日の光に向かって咲いている風景。
ジョー・マローンのウォーターリリー・コロンは、2020年春にリリースされたブロッサムコレクションの1本だ。同じく新発売されたユズコロンと、復刻したシルクブロッサム、オスマンサスブロッサム合わせて、現在4本が発売されている。サイズは30mlが9240円。数量限定品のため、無くなり次第終了というアレだ。JMはこの季節限定とか数量限定の売り方がとても上手くて、毎年少しずつボトルのステッカーや印字、キャップの色などを変えながら数量限定リリースをしている。このシリーズも5月くらいには2021バージョンが出るかもしれない。
パステルカラーのつや消し色が上部にかかったグラデーションボトルの2020ブロッサムズ。ではウォーターリリー・コロンは一体どんな香りかというと。
トップ。付けてすぐアルコール臭がツンと吹き抜ける。そこですぐに鼻を近づけると強い土の匂いとグリーン香にKOされて頭がクラッとくることもあるので注意が必要。JMの香水はコロン濃度なので、香りを確かめたいときは付けて20秒ほど待ってから鼻を近づけるといい。でないと鼻をやられて、最初にアルコールと一緒に飛び込んできた香りをその後もきつく感じてしまいがちだ。
最初に感じるのは、青い草っぽさと湿った土の茶色い気配。面白いことに、付ける場所の体温や湿度、肌の感じによって、グリーンが強く出るか土っぽさが強く出るかが、日によってかなり違う。そしてそれらの背後に水の香りがしているというイメージ。最初に土っぽさを感じることが多い人は、やや苦手という印象をもちやすいかもしれない。クレジットにはトップにネロリとあるけれど、いや違うだろう、オレンジの葉プチグレンでは?という気がする。そんなウッディ感あるグリーン。
それでも、トップの土の香りはすぐに消失し、5分もすると香り全体がまるみを帯びてくる。その青い葉の香りの方は穏やかになり、そこにジャスミンとクリーミーなフローラルが出てくる。それはとても穏やかで透き通ったウォータリーな花の香りだ。香り全体がしっとりとした雰囲気になってくる。
とはいえ、よくいう瓜っぽいアクアではない。メロン、キュウリの匂いを思わせるカロンなどの香料を使っているだろうけれど、野菜っぽい風味や塩みは感じられない。全体がややクリーミーなアクアティックという印象になっている。これはうまく香らせるととても印象のよい香りになるだろう。特に、春らしい色の女性用セットアップやワンピース等にはよく似合う、スッキリした穏やかな優しさを感じさせる香りだと思う。
香りの展開は、トップの土っぽさをのぞくとほぼワンノートで、クリーミーなジャスミン&睡蓮の香りにほのかにグリーンを残したまま3~4時間で終息する。ラストにはホワイトムスクの温かみが出るくらいで、ほぼそのままグリーン&フローラル香でドライダウン。
このコロン単体ではもの足りなく感じるかも知れないが、ジョー・マローンのコロンはコンバイニング前提を考えると、青みとウォータリー感をもつアイテムは割と貴重だと思う。香水ピラミッドでは、トップのシトラスとミドルのフローラルの間に位置するのがグリーン。だから、シトラス系に重ねたりフローラル系に重ねたりすることで、どちらにもみずみずしい透明感を足すことができるだろう。そういう意味で、コンバイニングが好きな方は持っていて損はない1本かもしれない。
香り立ちは柔らかく淡い。それでも日によってはケミカルっぽさを強く感じる日もあるから、ウェストや胸元などに軽くプッシュがいいと思う。付け方がうまいと、5分ほどでふんわりジャスミンとクリーミーな睡蓮の香りがしてきて、輝く水面に広がる丸い睡蓮の葉、そこに咲く白い可憐な花の香を思わせる絶妙なコントラストを見せる。
モネの「白い睡蓮」を思う。彼はこの作品で色を混ぜることなく、細かく色を置いていくことで、隣り合ったそれぞれの色との調和からさまざまな色が感じられるように表現した。だから近くで見ると色が点在しているが、遠くから見るとしっかり全体の印象が作られている。このコロンも同じだ。土の茶色、水の青、葉の緑、そして花の白が、それぞれの色と香りを主張しながら、同時にスッキリと一点に収束している。それは日を浴びて午後に咲く白い睡蓮の香り。
明鏡止水。鏡のような水面に円い葉が浮かんでいる。小さな白い花が午後の光を浴びて、ほのかな香りを水辺の風に漂わせている。それは太陽と水の香り、ウォーターリリー。